「たくさんの案件を見てきた中で、なぜ最終的にこの会社だったのか」。インタビューでそう聞かれたとき、私は「合わせ技一本です」と答えました。一つの決め手があったわけではなく、いくつかのことがたまたま重なった。それが一番正確な言い方だと思っています。その一、自分の側が温まっていた前回書いたとおり、2年間の失敗を経て、進め方がある程度自分の中にできていました。なにより、自分自身が徐々に盛り上がってきていた。「いつか買う」から「そろそろ買う」に気持ちが変わっていた時期でした。その二、相手が積極的だったそこに、すごく積極的に話してくれる売主が現れた。このタイミングが合ったことが大きいです。「積極的」とは具体的には何か。返事が早かった、ということです。「次はいつ会いましょうか」「こういう情報をください」というやりとりに対して、完璧な返答かどうかはさておき、とにかく返事が早い。次に何をするかを具体的に話せる。連絡が途切れる売主を何人も見てきたあとだったので、これだけで印象がまったく違いました。他にもう一社くらい候補がいたと聞いています。それでもこちらを選んでくれた理由は、正直に言うとわかりません。相性がよかったのだと思います。「お互いこれだ」と思ったかと聞かれると、そこまで言語化はできない。でも、比較的思った通りに、いろんなことが前に進んだ感触はありました。その三、売主は4年間、決まらなかったあとから聞いた話ですが、売主は4年くらい、いろいろなところに登録して、会って、話して、ダメになって、を繰り返していたそうです。「もうそろそろ決めたい」という気持ちが、向こう側にもあったのだと思います。買う側は「いい案件がない」と思いがちですが、売る側も「いい買い手がいない」と思って何年も過ごしている。その両方が同じタイミングで「そろそろ」になった。合わせ技と言ったのは、そういうことです。再現性はない、と言い切っておきますだからこそ、「こうすればいい会社を買える」というノウハウとしてこの話を書くつもりはありません。再現性はそんなにないと思っています。ただ、自分の側でできることが一つだけあるとすれば、「自分が温まっている状態を作っておく」ことです。案件を見続ける。小さく失敗しておく。そうしておくと、「この人は返事が早い」という小さな違いが、ちゃんと大きな違いとして見えるようになります。次回は、買ったあとの話。前オーナーは84歳。しょっちゅう喧嘩しています。※ 本コラムの内容は2025年3月時点のものです。